【映画】『屍人荘の殺人』ひきこもごも
ミステリーが好きなので映画『屍人荘の殺人』を観た!
原作小説を読まないで観に行ったので純粋な気持ちで楽しめた。
しばらく観ていてようやく「あっこの原作ちょっと前にTwitterで見かけたやつだ!! 良かったー! まだ読んでなくて良かったー!!」となった!(笑)
とにかく読もうと思ったのにすっかり失念していた上にタイトルも忘れていて、映画『屍人荘の殺人』のタイトルを見ても全く思い出せなかったポンコツ具合です。
結果的に読まずに行って正解だったようである。
原作は賞も獲っている作品。
後で公式HPをチェックしたところ原作者今村先生が「小説とはまた違う雰囲気」とコメントしているので全然違うもののようだ。
原作を読んでから感想を書こうとしたものの、映画評価サイトの批評で色々言われているのを読んで早く映画の感想書きたくなったので先に書くことにしました(笑)
以下、感想。
屍人荘の殺人
2019年公開、製作:日本。
原作『屍人荘の殺人』今村昌弘著。木村ひさし監督。
観た環境:映画館、スクリーン大、2D
あらすじ※ネタバレ無し
葉村譲(神木隆之介)は神紅(しんこう)大学のミステリー研究会に所属する1年生(一浪)。七浪だか八浪だかしているらしいミス研会長の明智恭介(中村倫也)の助手を務める。2人は学内の事件に首を突っ込んでは解決していくので“神紅のホームズとワトソン”と呼ばれていた。
ある日またもや学内で起きた事件に首を突っ込んでいた2人に同学内1年生の美少女 剣崎比留子(浜辺美波)がロックフェス研究会の夏合宿に一緒に参加してほしいと依頼してくる。一年前合宿中に女子学生が1人行方不明になっているらしい。さらにフェス研部室には謎の脅迫文が置かれていた。
葉村は明智・剣崎と共に合宿が行われる“紫湛荘”へと向かう。
ペンション紫湛荘は大正レトロ風の洋館で、室内には甲冑や刀剣といった西洋的な武具がお洒落に飾られている。他の合宿参加者たちとも対面しBBQを終えてロックフェスに向かう一行だったが…。
感想※ネタバレ無し
この映画。評価サイトで軒並み低い点数のコメントを読むと「予告編詐欺」「中村倫也ほぼ出ないじゃん」という意見が多い。
うーん…た、確かに…。「中村倫也ほぼ出ないじゃん」という意見には反対する余地がない。確かにそうなのだ。全体の四分の一程度で中村as明智は退場してしまう…。
これは中村くん目当てで行ったファンの方には辛いだろうと思う。
しかしながら、四分の一程度の尺できっちり軌跡を残していった中村倫也良い役者さんだなぁと私は思った。
「予告編詐欺」という批評には理由が2点あるかと思われる。
1点目は上記の中村as明智だ。予告編では中村as明智の尺が多くとても序盤で退場するとは思えないからだ。
神紅のホームズの二つ名によろしく彼が事件を解決するようにも見える。
ただ実のところ私はこの予告編を映画館で数回観る機会があったのだが、2回目くらいでふと「あれっ中村くんどこだろ」と違和感を覚えた。
ペンション室内のカットが何回も映るが、その中に中村くんの姿が見つけられなかったのだ。
なので、注意深く見ていると「あれ? いないかも」ということには気づくことが…できるかもしれない、一応…。
2点目。
ここがかなり重要なのだが、予告編でも公式サイトでもとある情報が頑なに隠されている。
この情報を隠したことによって、この映画は単なるミステリー映画になっているのだが、実は単なるミステリー映画ではないのだ。
ここが予告編で詐欺られた=ミステリー映画だと思ったのにそうじゃなかった! 詐欺だ!という展開になってしまう点である。
しかしながら…これはなかなか難しいところである。どこまで観客へのサプライズにするのか…予告編でどこまで開示するのか…。
この映画(原作もそうだが)ミステリーの中では所謂「クローズド・サークル」つまり“吹雪の山荘”ものに分類される。
“吹雪の山荘”とは、吹雪によって登場人物たちが山荘から出られなくなってしまい外界と断絶させられてしまうというミステリー王道のシチュエーションである。
理由は吹雪以外にも、崖崩れによって道路が塞がってしまい帰路が無くなる、唯一の交通路であった橋が崩落する…などがある。
場所も山荘に限らず嵐で船が出せなくなった孤島など。
交通手段以外にも連絡手段も絶たれるのが一般的だ。電話線が切れたり、携帯電話は当然圏外である。
「クローズド・サークル」は大まかに分類すれば密室ものとなる。
「クローズド・サークル」を代表するミステリーと言えば『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー著が挙げられる。
日本人作家ならば『十角館の殺人』綾辻行人著がかなり有名どころである。私も好きな作品だ。
金田一少年の事件簿は長編になるとほとんどが「クローズド・サークル」に当てはまるし、名探偵コナンなら「資産家令嬢殺人事件」「黄昏の館事件」などがそう。
「クローズド・サークル」についてくどくど書いてしまったが、つまりこの映画でも登場人物たちはみんなペンション紫湛荘に閉じ込められることになってしまうのだ。
外に出られない状況の中で追い詰めるように殺人が起こる。
こう書くと普通の「クローズド・サークル」ミステリーだが、この作品は一味違った。
登場人物たちが山荘に閉じ篭らざるを得ない理由。それは。
ゾンビが襲ってくるからである。
ふう。
ゾンビが襲ってくるぅぅぅぅ!!!
なんてこったい!/(^o^)\ナンテコッタイ
つまり『屍人荘の殺人』とはミステリー映画でもあり
ゾンビものホラー映画でもあるわけだ!!!!
予告編では徹底的にこのゾンビたちがひた隠しにされている。
ゾンビのゾの字どころかzも出てこない。ホラー映画独特のにおいも特にしない。ぷんぷんにおわない。
なので「ミステリー映画だ」のつもりで観に行くと、突然人間たちが豹変し瞳孔がおかしくなり目の色が文字通り変わりふらふら歩いては人に噛み付いたり殴られても蹴られても絶えず襲ってくるホラー描写にノーガードで出くわしてしまうのだ。
これはホラー嫌いにとっては相当な痛手である。
実は私もミステリーは好きなのだがホラー映画は苦手なタイプな故、ゾンビが痛々しいシーンはちょっときつかった。(あんなに有名な『ウォーキング・デッド』も未視聴である)
とはいえ一応は配慮がなされている。
ゾンビを退治するには従来のゾンビものよろしく頭部を完全に破壊することが有効な手であるゆえ、ゾンビと化してしまった登場人物たちは軒並み頭部に決定的な一撃を食らう羽目になる。
ホラー映画ならばシャベルやら剣先やらがぶすぶすと顔面にめり込んでいくシーンが血しぶきと共に大画面いっぱいになるだろうが、この映画ではレントゲン写真のようなスケルトンの描写がされる。
なので一応グロくはない…が、私のような先端恐怖症にとってはそれでもきつかったので目を伏せてしまった。
しかしこのくらいの描写ならミステリーにも出てくる可能性はあるので、ホラーとミステリーの境をうまく描いていたと思う。
見せなくてもいいのではとも思ったが、ゾンビものの側面を描くには頭部破壊レントゲン描写はエッセンスとして必要だったのかもしれない。
話を少し戻して、ゾンビ襲撃によって山荘に孤立する羽目になるというところなのだが。
そもそもなぜゾンビが出てくる事態になったのか。なぜ人間が突然“ゾンビ化”してしまったのか。これは重大な由々しき問題である。
観客には一応そのきっかけとなるシーンが提示されている。
ロックフェススタッフの何人かが怪しげな薬のようなものが入っている注射器を持ち出している。飲み物に混入したりしている。どうもバイオテロのようだ。
登場人物たちが命からがらゾンビから逃げるシーンはただただホラー映画である。
そして山荘の玄関を目の前にしてなんと主演であるはずの中村倫也as明智恭介がゾンビの手に落ちてしまうのである。
びびる。ここで退場である。
これにはマジでびっくりした。いやいやいやそうは言ってもさ~生きてんじゃないの~生きて…生きてるよねぇ?
えっ…明智…えっ…ホームズいなくなった?!
そして本当にマジで最後の最後のほうまで…明智恭介退場である。
これは…確かに…ミステリー映画だと思って来てみたらホラーの始まりでゾンビが出てきて中村倫也までいなくなる…ここまでで映画の四分の一か三分の一…と言われたら確かに怒りたくなるかもしれない。気持ちはわかる。
さて。
不在となった明智ホームズに代わってホームズとなるのがヒロインの浜辺美波as剣崎比留子である。
彼女は不幸を呼び寄せてしまう体質らしく結果的に事件を解決してきたという経歴の持ち主だった。
ホームズ剣崎とワトソン葉村のコンビはお互いの知識を披露しながら推理を進めていく。
一コマ一コマ推理の駒を進めていくのは王道ミステリーという感じでとても良かった。
何を考えているか分からずかってに突き進んでいく探偵役よりも、推理をしていく過程を見せてくれ観客にも手掛かりが次々に開示されていく方が楽しい。
この若いふたりの二次元的な会話劇も胸キュンである。
殺人事件もゾンビに襲われたのか、人間に殺されたのかという2つの側面から考えなくてはならない。
仮にゾンビに襲われたのなら室内にゾンビがいるということでは? という恐怖を煽る展開も悪くない。
ゾンビという異質さを投入したことによってミステリーとホラーがうまく融合したように思う。
つまるところ『屍人荘の殺人』が一番評価されるポイントもまさにそこで、要は使い古された「クローズド・サークル」に一石投じたということなのだ。
嵐や吹雪はもう飽きた、ゾンビが襲ってくるのはどうだろう、ゾンビを利用すれば殺人トリックにも幅が広がる!
これはそういう作品なのだ。
ゾンビという要素を予告編に入れるか入れないか…これは問題だ。
入れてしまえばホラー映画という側面も効果的にアピールできるかもしれない。ホラーが苦手な観客は地雷を踏まなくて済む。
恐らくだが予告編にゾンビ要素が入っていなかった理由は、原作小説でもゾンビ要素が隠されているからということに尽きるのではないかと思われる。
原作小説の表向きのあらすじを読むと「思いも寄らぬ事態が発生し」としか記されていない。
読者に「はいはいいつものクローズド・サークルものね。今回は嵐かな~」と思わせて驚かせるためだろう。
映画の観客は原作既読層と未読層がいる。
原作がゾンビ要素を隠し項目にしている以上、映画で「ゾンビが出てくるよ!」とおおっぴらに言えるはずもない。
登場人物や設定の改変はかなり見られるものの基本的には原作リスペクトの姿勢が貫かれているのだと思う。
なので予告編にゾンビ要素が一切入っていなかったことは仕方がないと思う。
ただ確かに年齢制限はかけても良かったのかも…しれない。
そしてなぜ人間がゾンビ化したのかという重大な問題を最後まで解決しなかったのはひっかかる。
一言ニュース映像だけでも良いから解決したのか犯人が逮捕されたのか落ち着かせてほしかった。
しかしながらこの映画ではあくまでも閉ざされたペンション紫湛荘で起こる殺人事件と顛末のほうが主問題なのだ。
本当にやってのけられるだろうか?というトリックもあるものの及第点だと思う。(偉そうにw)
何より俳優たちやキャラクターが良い。
ゾンビとなってしまった明智が生きているはずだとずっと信じて疑わない葉村の強さと優しさにぐっときた。
明智の謎めいた言葉もきれいに回収され、神紅のホームズの名に恥じぬ名推理であった。だからこそもっと見たかったという欲はある。
剣崎が披露する雲竜型も効果的に仕上がり二次元めいた美少女である浜辺美波が演じることによって奇抜さに蓋をしてしまった。
(この雲竜型は原作にはないようだが、原作者も好意的にコメントしていた)
他の俳優さんたちもクローズド・サークルならではの嫌な空気感や妙に疑わしい素振りなどを自然に演じており、芝居をあまり感じさせなかった。
葉村と剣崎のコンビが出くわす新たな事件が見たいと思わされるし、明智と葉村が過去に首を突っ込んだ事件や最初の出会いなんかも見たいなぁと思わされる。
俳優さんたちが良い仕事をしているのだと思う。
賛否両論あるのは良い映画の証拠とは思う。
私は単純なので純粋に楽しめたクチだった。
原作小説も早く読まなければ!